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静岡地方裁判所 昭和63年(ワ)518号 判決 1990年7月10日

第一事件原告(第二事件被告)

株式会社青島商事

第二事件原告

杉山重工株式会社

第一事件被告(第二事件原告)

杉山欣宏

第二事件被告

青島常昌

ほか二名

主文

一  第一事件について

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

二  第二事件について

1  被告青島常昌は、原告杉山重工株式会社に対し、金一三二万二四二〇円及び内金一二二万二四二〇円については昭和六三年一月一日から、内金一〇万円については平成元年四月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  別紙記載の交通事故につき、原告らが、各自被告らそれぞれに対して負担する損害賠償債務は存在しないことを確認する。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  この判決は、主文第1項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(第一事件)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告に対し、金一九五〇万円及びこれに対する昭和六二年一二月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(第二事件)

一  請求の趣旨

1 被告青島常昌は、原告杉山重工株式会社に対し、金一三二万二四二〇円及び内金一二二万二四二〇円については昭和六三年一月一日から、内金一〇万円については平成元年四月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 別紙記載の交通事故に基づき、原告らが、各自被告らそれぞれに対して負担する損害賠償債務は存在しないことを確認する。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

4 右1及び3につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(第一事件について)

一  請求原因

1 第二事件被告青島常昌(以下「被告常昌」という。)は、昭和六二年一二月三一日午後一一時三五分頃、普通乗用自動車(静岡三三に五七二五・イタリア製ランボールギーニ・カウンタツク、以下「甲車」という。)を運転して、愛知県豊田市西新町地内東名高速道路下り線三一一・六キロポスト附近を、静岡市から名古屋市方面に向かつて走行中、第一事件被告兼第二事件原告杉山欣宏(以下「被告欣宏」という。)の運転する普通乗用自動車(尾張小牧五六ぬ一三九・以下「乙車」という。)と衝突し、甲車、乙車とも破損するという交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

2 本件事故の態様は、別紙事故現場見取図のとおりであつて、被告欣宏の前方不注視等の過失に基づくものであるから、被告欣宏は、民法七〇九条により、本件事故によつて発生した損害を賠償する責任がある。

3 本件事故により甲車は大破したので、その所有者である第一事件原告兼第二事件被告株式会社青島商事(以下「原告青島商事」という。)は、甲車の時価に相当する少なくとも金一九五〇万円の損害を被つた。

4 よつて、原告青島商事は、被告欣宏に対し、右損害金一九五〇万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六二年一二月三一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1は認める。

2 同2は否認ないし争う。

本件事故は、高速道路走行車線を走行中の乙車を、後方追越し車線から突然猛スピードで追越さんとした被告常昌運転の甲車が、その暴走等によりハンドル操作を誤り、乙車の走行車線に進入して乙車と衝突した自損事故であるから、乙車の運転者である被告欣宏には、本件事故の発生について何ら責任はない。

3 同3は不知。

4 同4は争う。

(第二事件について)

一  請求原因

1 昭和六二年一二月三一日、甲車と乙車が衝突するという本件事故が発生したことは、第一事件請求原因1のとおりである。

2 本件事故は、高速道路走行車線を走行中の被告欣宏の運転する乙車を、後方追越し車線から突然猛スピードで追越さんとした被告常昌の運転する甲車が、その暴走等によりハンドル操作を誤り、乙車の走行車線に進入し、かつ、道路最左端ガードロープ等に甲車を衝突せしめたばかりか、数回転しながら発生したまさしく自損事故であるところ、被告欣宏は、右自車進行方向前方に突然出現した甲車との衝突を避けるべく回避したが、突然の異常事態にかなわず、甲車と接触したものである。

よつて、被告常昌は、民法七〇九条により、本件事故によつて発生した損害を賠償すべき責任がある。

3 本件事故により乙車は破損したので、その所有者である第二事件原告杉山重工株式会社(以下「原告杉山重工」という。)は、次のとおりの損害を被つた。

(一) 修理費 金九四万八四二〇円

(二) レツカー代 金四〇〇〇円

(三) 代車費 金九万円

(四) 評価損 金一八万円

(五) 弁護士費用 金一〇万円

4 よつて、原告杉山重工は、被告常昌に対し、右損害金一三二万二四二〇円及び内金一二二万二四二〇円については本件事故の日の翌日である昭和六三年一月一日から、内金一〇万円については本訴状送達の日の翌日である平成元年四月一九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

5 また、原告青島商事、被告常昌、第二事件被告青島利枝(以下「被告利枝」という。)及び第二事件被告青島義高(以下「被告義高」という。)は、本件事故が被告欣宏の過失に基づくものであるとし、乙車の運転者である被告欣宏と乙車の所有者である原告杉山重工に対し、本件事故による損害賠償を請求している。

6 しかしながら、本件事故は、前記のとおり、被告常昌の一方的過失により発生したものであつて、被告欣宏及び原告杉山重工には何ら損害賠償責任がないのであるから、原告青島商事、被告常昌、被告利枝及び被告義高に対し、本件交通事故につき、被告欣宏及び原告杉山重工が負担する損害賠償債務は存在しないことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1 請求原因1は認める。

2 同2は否認ないし争う。

3 同3は争う。

4 同4は争う。

5 同5は認める。

(一) 原告青島商事の損害

原告青島商事は、本件事故によりその所有の甲車を大破され、その時価に相当する金一九五〇万円の損害を被つた。

(二) 被告常昌の損害

被告常昌は、本件事故により外傷性頸部症候群及び腰部挫傷、右膝擦過創打撲症及び膝蓋骨骨折、右足関節打撲症、肋軟骨骨折の各傷害を負い、昭和六三年一月一日から同年六月三〇日まで一八二日間(その間の実通院日数八八日間)の通院加療を要したものである。

その結果、次の損害を受けた。

(1) 治療費 金四一万二〇五〇円

(2) 慰謝料 金九三万円

(三) 被告利枝の損害

被告利枝は、本件事故により右側頭部擦過創・打撲症、左胸部・右肩打撲症左第四肋骨骨折、外傷性頸部症候群の各傷害を負い、昭和六三年一月一日から同年四月三〇日まで一二一日間(その間の実通院日数八一日間)の通院加療を要したものである。その結果、次の損害を受けた。

(1) 治療費 金三九万五七八〇円

(2) 慰謝料 金七二万円

(四) 被告義高の損害

被告義高は、本件事故により外傷性頸部症候群の傷害を受け、昭和六三年一月一日から同年同月三日まで三日間の通院加療を要したものである。その結果、次の損害を受けた。

(1) 治療費 金四万六七四〇円

(2) 慰謝料 金二万三一〇〇円

6 同6は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

(第一事件について)

一  請求原因1は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故の態様と被告欣宏の損害賠償責任について判断する。

1  甲車を撮影した写真であることについて争いがない甲第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一ないし四号証、同第一〇号証、原告青島商事代表者及び被告欣宏本人の各尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 被告常昌は、昭和六二年一二月三一日、自宅にて夕食をすませた後、友人の小本剣蔵らとともに、京都に初詣を兼ねて遊びに行くことになり、甲車に妻と長男を同乗させて藤枝を出発したが、友人の小本剣蔵も別の普通乗用車(イタリア製ランボールギーニ・カウンタツク)に乗車し、小本剣蔵の運転する車が先行した。

(二) 被告常昌は、同日午後八時三〇分頃自宅を出発したが、途中宿泊する予定なく、深夜東名高速道路と名神高速道路を走行して早朝京都に到着し、京都のインターに到着した際京都の友人に架電して連絡をとり、友人の案内で初詣した後、翌一月一日藤枝に帰る予定であつた。

(三) 被告常昌は、吉田インターから東名高速道路に入り、時速約一五〇キロメートルの速度で下り車線を走行し、愛知県豊田市の手前の上郷サービスエリアで休憩した後、小本剣蔵の車を先行させて名古屋方面に向つて追越車線を走行していたが、約一〇分走行したとき左前方約一〇メートル付近の走行車線を名古屋方向に時速約一〇〇キロメートルで走行している乙車を発見したので、そのまま乙車を追越すため走行を続けていたところ、被告常昌がハンドル操作を誤つたためか、乙車を追越した直後急に走行車線に進入し、そのまま走行車線を斜めに横切るように走行して左側ワイヤー式ガードレールに激突した。

(四) 乙車を運転していた被告欣宏としては、追越車線を猛烈なスピードで走行してきた甲車が乙車を追越した直後急に走行車線に進入してきたので、これと衝突を回避するため一たん右にハンドルを切つて追越車線に進入した後、再び左にハンドルを切り、走行車線に戻つたうえ、走行車線の路肩に停車したが、乙車が追越車線に進入してから走行車線に戻るまでの間に、ガードレールに激突した後コントロールを失つて数回路上を回転しながら走行していた甲車と接触し、その接触により乙車が破損した。

2  これに対し、被告常昌は、当審における尋問において、甲車を運転して本件事故現場付近に差しかかつた際、乙車が追越車線に移ろうとして接近してきたので右にハンドルを切つたが、中央分離帯に接近しすぎたので左にハンドルを切つたところ、後方から走行してきた乙車に追突され、コントロールを失つて道路左端のガードレールに激突したものである旨供述するが、前掲各証拠によれば、(一)被告常昌の右供述は、事故直後の被告欣宏や警察官に対する事故発生状況についての説明と著しく相違していること、(二)被告常昌の右供述は、保険会社間において修理費等の交渉をした際の説明と相違していること、(三)被告常昌は、高速運転可能な甲車(最大時速の表示メーター三〇〇キロ)で追越車線を走行し、時速一〇〇キロメートルで走行している乙車を追越しながら自己のスピードは一〇〇キロメートル程度であると故意に虚偽の供述をしていること、(四)被告常昌は、本件事故後、甲車の修理代を保険で捻出できるよう種々の工作をしたが、失敗に終つていること、などの事実が認められることに照らしてたやすく措信し難いというほかなく、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

3  前記1に認定した事実によれば、本件事故は、被告常昌の無理な追越し、ハンドル操作の誤りないし無謀な走行車線への進入という一方的な過失に基づくものといわざるを得ず、したがつて、被告欣宏に前方不注視等の過失が認められず、民法七〇九条に基づく損害賠償義務を認めることはできない。

三  よつて、原告青島商事の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないので、これを失当として棄却すべきである。

(第二事件について)

一  請求原因1は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故の態様と被告常昌の損害賠償責任について判断するに、本件事故は、被告常昌の無理な追越し、ハンドル操作の誤りないし無謀な走行車線への進入という一方的過失に基づくものであることは、第一事件についての理由二において認定判断したとおりであるから、被告常昌は、民法七〇九条により、本件事故によつて発生した損害を賠償すべき責任があるというべきである。

三  そして、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六ないし八、同第九号証の一、二、被告欣宏本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故により、原告杉山重工所有の乙車が破損され、その主張のとおり修理費金九四万八四二〇円、レツカー代金四〇〇〇円、代車費金九万円、評価損金一八万円、以上合計金一二二万二四二〇円の損害を被つたほか、本訴の提起と追行のための弁護士費用として金一〇万円を支払い、これと同額の損害を被つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

四  また、請求原因5は当事者間に争いがないところ、本件事故について被告欣宏に過失がないことは前記に認定判断したとおりであるから、乙車の運転者である被告欣宏と乙車の所有者である原告杉山重工は、原告青島商事、被告常昌、被告利枝及び被告義高に対し何らの損害賠償義務を負担するものではないというべきである。

五  よつて、原告杉山重工及び被告欣宏の本訴請求は、いずれも理由があるとして、これを認容すべきものである。

(結論)

以上の次第であるから、第一事件の請求は失当として棄却するが、第二事件の請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

(別紙) 交通事故

一 日時 昭和六二年一二月三一日

午後一一時三五分頃

二 場所 愛知県豊田市西新町市内東名高速道路下り線

三一一・六キロポスト

三 加害車 普通乗用自動車(静岡三三に五七二五)

右運転者 青島常昌

四 被害車 普通乗用自動車(尾張小牧五六ぬ一三九)

右運転者 杉山欣宏

五 態様 右場所において、加害車と被害車が接触した。

(事故現場見取図)

<省略>

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